1.狼爪とは
1-1.前肢の狼爪
1-2.後肢の狼爪
2.狼爪の役割
2-1.前肢の狼爪の役割
2-2.後肢の狼爪の役割
3.JKCやAKCなど団体ごとに狼爪に関するスタンダードがある
3-1.トイプードル
3-2.柴犬
3-3.チワワ
3-4.ウェルシュ・コーギー・ペンブローク
3-5.ジャーマンシェパード
3-6.グレートピレニーズ
狼爪とは
オオカミのツメ(狼爪)と書いて、ろうそうと読みます。犬の前肢および後肢の内側に生えている、地面と接触していない爪のことです。人間でいう親指に相当し、英語では「dewclaw」(デュークロー)と言います。
実は現在ペットとして飼われている犬たちのほとんどは、後肢の狼爪を持っていません。
どの犬にも前肢には5本の爪がある為、後肢のもののみを特別に狼爪と呼ぶこともありますが、日本犬保存会や警察犬協会などの犬種定義では前肢後肢どちらのことも、狼爪と呼んでいます。
◆前肢の狼爪
犬の前肢には、5本の指があります。狼爪は内側にあり、他の4本の指より高い位置についていて、地面に接触することはありません。退化の過程にあるため、他の指に比べると小さめです。
基本的にどの犬種も、前肢には狼爪を持って生まれてきます。
◆後肢の狼爪
多くの犬種では後肢の親指が退化しているため、指は4本です。後肢の狼爪は、「後肢に生じる余剰のあし指」のことで、「余剰趾」とも言います。
「趾」とは、「あし」や「あしゆび」を指しています。
愛犬の後ろ足には狼爪がないのは、退化して生まれつき無いか、または生後すぐに切除されたかのどちらかです。
切除される理由は、猟犬の場合にはケガの防止のためです。また、犬種標準(スタンダード)で狼爪が無いことが定められているために切除される犬種も多くあります。
しかし中には、グレートピレニーズといった「後肢の狼爪があることがスタンダード」で、生まれ持っていても切除しない犬種も存在しています。
狼爪の役割
狼爪の役割は、前肢と後肢で異なります。
◆前肢の狼爪の役割
実は、愛犬の様子をよく観察すると、前肢の狼爪を使っているところを目にすることは難しくありません。
歯みがきガムなどの長い食べ物を齧ったり、おもちゃを噛んだりしているときには、食べ物やおもちゃを支えるために狼爪を使っています。
また、前肢で顔や頭を搔いている際も狼爪が役立っています。
近年は、走る時のクッションの役割を果たしているのではないかと言われ、前肢の狼爪がない場合、アジリティ中にケガをするリスクが1.9倍に高まるという研究結果も発表されています。
これは、狼爪がないために、他の4本の指にかかる負担が大きくなるからだと考えられています。
◆後肢の狼爪の役割
後肢の狼爪は、滑りやすくゴツゴツした岩場を登り降りするのに役立っていたと言われています。現在はそういった環境下で生活することは中々ありませんので、仮に後肢に狼爪があったとしても、現代の飼育環境ではほぼ役に立っていません。
JKCやAKCなど団体ごとに狼爪に関するスタンダードがある
世界には犬種標準を定めたり血統書を発行する団体がありますが、それぞれ基準となる情報が異なることがあります。
例えば、狼爪については、JKC(ジャパン・ケネル・クラブ)とAKC(American Kennel Club)の犬種標準(スタンダード)は、異なります。
JKCというのはFCI(国際畜犬連盟)が定めたものをベースとする団体で、この団体の定めた情報や基準が日本の犬の繁殖指針となっています。
狼爪について、JKCの定める犬種標準では、特定の犬種以外は後肢の狼爪は「存在しないもの」とされています。
ちなみに、AKCという団体は世界的なドッグショーやアメリカなどの繁殖の基準となっている団体です。
ここでは、JKCとAKCにおける狼爪に関するスタンダードを、いくつかの犬種で見ていきましょう。
◆トイプードル
JKC:記載なし
AKC:前肢の狼爪は除去してもよい
◆柴犬
JKC:記載なし
AKC:狼爪の除去は任意
◆チワワ
JKC:後肢の狼爪は、望ましくないとされている
AKC:前肢も後肢も除去してよい
◆ウェルシュ・コーギー・ペンブローク
JKC:記載なし
AKC:後肢の狼爪は、除去すべき
同じウェルシュコーギーでも、カーディガンの場合は、JKCでは「全ての狼爪は、切除しなければならない」とされており、AKCでは「前も後ろも除去すべき」となっています。
2つの犬種は外見がよく似ていますが、狼爪に関するスタンダードは異なるのは、興味深いですね。
◆ジャーマンシェパード
JKC:記載なし
AKC:後肢の狼爪は、除去すべき
JKCでは狼爪に関して特記はありませんが、日本警察犬協会では「狼爪はたいてい後肢に見られて、誕生第一日目に除去しなければならない」とされています。
◆グレートピレニーズ
グレートピレニーズには、狼爪が2本生えています。また、少ないですが、後肢の狼爪を持って生まれ、残すことがスタンダードとされる犬種でもります。
グレートピレニーズの他にもブリアードという犬種で、狼爪を2本ずつ持って生まれることがあります。これらの犬種では、2本の狼爪を持つことがスタンダードとして望ましい姿とされています。
グレートピレニーズのJKCのスタンダードは、「後ろ足には2本のしっかりとした狼爪がある。両前足には1本または2本の狼爪がある」とされています。
狼爪は切除すべき?
前述の通り、猟のためやスタンダードに合わせるため、生後すぐに狼爪が切除されることは少なくありません。
しかし、ブリーダーで切除されなかった子や、雑種や保健所等から譲渡された子で狼爪が残っている場合に、飼い主さんは切除するべきか悩むかもしれませんね。
ここでは、狼爪の切除について考えていきましょう。
◆問題がなければそのままが無難
狼爪を持つことは異常や奇形ではありません。狼爪があることで通常の暮らしに問題が生じることもあまりないでしょう。
ですので大きな問題がない限り、そのままにしておいてよいでしょう。
切除する場合は、通常生後2~7日後に行われます。これは、生まれたばかりの子犬の骨が、成犬に比べて柔らかいためと言われています。子犬には麻酔が使用できないため、切除手術は無麻酔で行われます。子犬は神経が未発達で痛みをあまり感じないと言われていますが、実際のところはよくわかっていません。
成犬になってから切除する場合、全身麻酔をして、付け根の部分から切り落とし、皮膚を1~2針縫う手術となります。費用は5,000~10,000円ほどです。全身麻酔にはリスクが伴うため、避妊・去勢などの手術と一緒に行うことが一般的です。難しい手術ではありませんが、犬は強い痛みとストレスを感じると考えられます。
これらのことからも、ドッグショーに出すなどの理由がない限り、そのままにしておいてあげましょう。
ただ、後肢の狼爪は骨を持たず、何らかの結合組織でぶら下がっているだけの状態の場合があります。取れそうだったり、ぶらぶらしていたりして、飼い主さんから見て不安を感じるような場合には、動物病院に相談してみましょう。切除するかどうかの選択は、獣医師さんとよく相談したうえで決めるとよいでしょう。
◆狼爪までケアを忘れずに
狼爪は他の爪と異なり地面に接することがないため、爪が伸び続けます。
犬の爪はカーブを描いて内側に向かって伸びるので、放置すると肉球に刺さるほどの巻き爪になります。悪化すると、犬が爪や足を噛んだり、爪が肉球に食い込み出血や腫れが生じたりします。
伸びた爪は、カーペットや服に引っかかって根元から折れるなどの怪我につながる場合もあるので、こまめなケアが必要です。
爪切りの目安は、月に一度です。基本的には、他の爪と同様の切り方で大丈夫なので、爪の手入れの際に一緒に行うことをおすすめします。
必ず犬用の爪切りを用い、爪が白い場合は血管が透けて見えるピンク色の部分の手前まで切ります。黒い爪の場合、どこまで血管があるのか分かりにくいため、少しずつスライスするように切っていきましょう。断面の色が少し変わり、湿ったような質感になるところで止めます。
巻き爪になってしまうと非常に切るのが難しくなりますし、爪切りを嫌がる子や爪切りの自信がない飼い主さんも少なくないでしょう。その場合には、動物病院やトリミングサロンで切ってもらいましょう。費用は、どちらも500円ほどです。
◆飼育環境を整える
狼爪を残した場合には、定期的なケアとともに、安全な飼育環境を整えてあげましょう。
カーペットは、犬の足腰に負担をかけないためには役立つものですが、狼爪がある場合には爪が引っかかって折れるなどの怪我の原因となります。毛足がループ状のものは、引っかかりやすく外れにくいので、避けた方がよいでしょう。飼い主さんの洋服も、爪が引っかかりやすい素材を避けると安心です。
また、室内で遊んでいるときに、家具にぶつけて折れる可能性もあります。遊ばせるスペースを十分に取り、そのスペースにはできるだけ家具などを置かない方がよいでしょう。
まとめ
狼爪は、祖先のオオカミの名残と言われています。奇形ではなく自然なものなので、愛犬にあってもなくても、気にする必要はありません。
怪我の予防や犬種のスタンダードに合わせるためにブリーダーで生後すぐに切除することもありますが、愛犬に狼爪が残っている場合には、特別の理由がなければ残しておく方が無難でしょう。愛犬の個性として受け止めてあげると良いのではないでしょうか。
長毛のワンちゃんの場合、被毛で隠れて見えないこともあります。ぜひ、愛犬に狼爪があるのか観察してみてください。狼爪がある場合には、ケガや巻き爪の予防のため、他の爪と同様、定期的に手入れをしてあげてくださいね。
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