1.犬の認知症とは
2.犬の認知症の症状チェック
2-1.犬の認知症の症状①ぐるぐると歩き回る(旋回運動)
2-2.犬の認知症の症状②隙間に入りこみ、出られなくなる
2-3.犬の認知症の症状③意味もなく吠え続ける
2-4.犬の認知症の症状④何度もごはんを食べたがる
2-5.犬の認知症の症状⑤夜に寝なくなる
2-6.犬の認知症の症状⑥呼んでも反応がなくなる
2-7.犬の認知症の症状⑦粗相が増える
4.犬の認知症の治療と予防法
4-1.運動や睡眠の改善
4-2.フードを替えてみる
4-3.サプリメントを与える
4-4.動物病院での薬物療法
犬の認知症とは
犬の認知症は認知機能不全(CCD)や高齢性認知機能不全(CDS)とも呼ばれ、獣医療の進歩によって動物の寿命が延びたことにより、以前よりも一般的な問題になってきています。
11~12歳を過ぎるころから発生率が高くなるといわれていますが、多くの飼い主さんは愛犬の認知症による行動の変化を加齢による老化現象のせいだと考えてしまうため、なかなか獣医師による診断や治療につながらずに結果として悪化してしまうというケースも残念ながらあります。
犬の認知症による症状を飼い主さんがよく把握することによって早期に動物病院を受診し、適切なケアを開始することができるため、結果として愛犬のQOLを改善することができるでしょう。
犬の認知症の症状チェック
犬の認知症の症状としては主に「見当識障害」、「人あるいは他の動物との関わり合いの変化」、「睡眠/覚醒サイクルの変化」、「トイレのしつけなどの忘却、学習した行動の変化」、「活動性の変化」、「不安感の増大」といった
6つの徴候が表れることが特徴的です。
これら6つの兆候をそれぞれの英語の頭文字をとって「DISHAAの6徴候」と呼ぶこともあります。
ここからは、それぞれの兆候をより詳しく解説していきます。
- ぐるぐると歩き回る(旋回運動)
- 隙間に入りこみ、出られなくなる
- 意味もなく吠え続ける
- 何度もごはんを食べたがる
- 夜に寝なくなる
- 呼んでも反応がなくなる
- 粗相が増える
◆犬の認知症の症状①ぐるぐると歩き回る(旋回運動)
主に「見当識障害」に該当し、犬が自分の意思とは無関係にぐるぐると同じ場所を回り続ける行動を意味します。飼い主さんが声をかけたりして止めようとしても、なかなか動きを止めることはなく、自然と落ち着くまで待つしかありません。
テーブルの角などにぶつかってもそのまま旋回し続けることもあるため、怪我などの二次的被害を引き起こしてしまう危険性があります。
よってぶつかったら危ないような場所には、予めコーナークッションやコーナーガードなどをかぶせておくことをお勧めします。
◆犬の認知症の症状②隙間に入りこみ、出られなくなる
こちらも主に「見当識障害」に該当し、ドアの陰や家具の後ろに入り込んだものの身動きが取れなくなり自分から出ることができないような行動を意味します。
もともと犬は本能的に狭くて暗い場所を好むため、健康で認知機能に問題がない犬でも眠たいときなどに部屋のすみっこへ行く、家具の隙間に顔を突っ込むといった行動が見られることがあります。
その場合は犬が満足すれば後退りや方向転換によって自分から出ることができますが、認知症の場合は「見当識障害」によって周囲の状況を感じることができなくなって意図せずに狭い場所に入ってしまうため、自分から出ることができません。
犬が入り込むことができないように、隙間の前には柵を設置したり物を置いたりして入り込むことができないようにすれば安心ですね
◆犬の認知症の症状③意味もなく吠え続ける
主に「睡眠/覚醒サイクルの変化」、「活動性の変化」、「不安感の増大」に該当し、特に夜間に眠らず吠え続けるといったいわゆる「夜鳴き」の症状は、飼い主さんを非常に悩ませます。
認知症になると昼と夜の感覚が狂ってしまうため、本来ならば寝る時間であるはずの夜を犬は朝や日中だと思い飼い主さんを起こそうとして吠え続けることによって「夜鳴き」となってしまいます。
また、活動性が過剰に増えることによって昔はおとなしかった犬が認知症になったとたん、いきなり吠え続けてしまうことも考えられます。
さらには視覚や嗅覚などの感覚機能が衰えた結果、周囲の状況を感じることができなくなり不安傾向が強まってしまい小さな物音や飼い主さんと離れることなどに対する不安をとても強く感じてしまい、その不安を訴えるために吠え続けてしまう場合もあります。
◆犬の認知症の症状④何度もごはんを食べたがる
主に「見当識障害」によって食べたことを忘れてしまうためや脳にある満腹中枢が正常に働かずに満腹感を感じることができないため、と考えられます。
何度もごはんを食べたがるからといって、求められるまま与えていると肥満を引き起こしてしまい犬の健康にはよくないことはもちろんですが、無視しても認知症による催促の場合はわがままなどによるものではなく症状の1つのため、諦めることは少なく犬も飼い主さんも疲れてしまいます。
よって1日にあげる量は変えずに小分けにして、食事の回数を増やしてあげることや低カロリーなものをおやつとしてあげることによって、犬に食べたという満足感を感じてもらうことをおすすめします。
◆犬の認知症の症状⑤夜に寝なくなる
主に「睡眠/覚醒サイクルの変化」によるものであり、認知症の初期症状として昼に寝ている時間が増えて、夜に起きている時間が多くなるという行動が見られます。
進行していくと完璧に昼夜逆転してしまい、夜鳴きにつながってしまう可能性があります。
昼と夜の感覚が狂ってしまうことを予防するためには、可能であれば太陽の出ている時間帯にお散歩をして犬が日光を十分に浴びられるようにしてあげましょう。
また、昼ではなく夜に寝てもらうためにも、可能ならば昼間はこまめに声をかけてあげる、少し遊んであげるなどによってお昼寝をさせないようにしましょう。
◆犬の認知症の症状⑥呼んでも反応がなくなる
主に「トイレのしつけなどの忘却、学習した行動の変化」による自分の名前を忘れてしまうことや、「人あるいは他の動物との関わり合いの変化」によって、飼い主さんを認識することができなくなるためと考えられます。
名前を呼んでも振り向かない、こちらに来ようとしない、といった自分の名前を忘れているような症状から、飼い主さんが帰ってきたときに喜ばない、なでてもらうことをあまり求めなくなる、などの変化が見られます。
◆犬の認知症の症状⑦粗相が増える
主に「トイレのしつけなどの忘却、学習した行動の変化」によるトイレの場所を忘れてしまうことや、飼い主さんのコマンドが分からなくなってしまうことによるためとなります。
ここで叱ってしまうと、犬はトイレをすることがダメなことだと思いこんでしまってトイレを我慢して病気となってします危険性があります。
よって、粗相による飼い主さん自身のストレスを避けるためにも犬がトイレを失敗してしまう頻度が高そうな場所には予めペットシートを敷き詰めておくことや、あまりにも頻繁に起こるようならば犬におむつを付けてあげるなどの対策を行いましょう。
犬の認知症の原因
明確な原因はいまだに解明されていませんが、認知症の犬の脳には人間のアルツハイマー病の患者と同じように神経細胞に「アミロイドβ」と呼ばれるタンパクが蓄積しており、その結果、脳に不可逆的な病理学的変化が生じることが知られています。
また、活性酸素による脳の神経細胞へのダメージも認知症の発症に関与している可能性があると考えられています。
犬の認知症の治療と予防法
今の獣医学では、残念ながら認知症を完治させる治療法はありません。
よって老化を遅らせるとともに可能な限り進行を遅らせること、また犬と飼い主さんの両方にとって暮らしやすい環境を作ることによって生活の質を保つことが一番の目標となります。
◆運動や睡眠の改善
老化や認知症の進行を遅らせるためには、毎日の生活の中で犬に適度な刺激を与えることが大切です。
可能な限り、犬にとって適した時間でのお散歩を習慣にすることやおもちゃを使用して一緒に遊ぶ、声掛けやなでる、抱っこなどのスキンシップの時間を増やすことをおすすめします。
もし、老化によって足に不安がある場合はペットカートやペットバギーを使用しての外気浴のみでも外の空気を感じることができるため、十分な刺激になると考えられます。
◆フードを替えてみる
認知症予防や進行を遅らせるためには、DHAやEPAといったω‐3脂肪酸、抗酸化作用のあるビタミンEなどが役立つといわれています。また、L-カルニチン並びにα‐リポ酸は、酸化障害の緩和を担っている細胞内小器官であるミトコンドリアの機能をサポートする成分として知られています。
よって、これらの成分などを豊富に含んでいる認知症用の療法食も開発が進んでいるため、かかりつけの獣医師に相談して切り替えてみても良いですね。
◆サプリメントを与える
認知症の発症に関与している可能性がある活性酸素を減らすためには抗酸化物質の摂取が有効であるとの報告があります。
抗酸化物質として代表的な栄養素は、ビタミンC、コエンザイムQ10、葉酸、ポリフェノール類などが挙げられるため、サプリメントとして与えてみても良いでしょう。
◆動物病院での薬物療法
現時点では犬の認知症を完治させる治療法は存在していないため、動物病院での薬物療法は認知症の進行を遅らせることや症状を改善することが主な目的となります。
米国においては「セレギリン」というお薬が犬の認知症治療薬として認可されています。「セレギリン」には脳内のドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンといった神経伝達物質の量を増やすことによって脳の働きを活発にするという作用があるため、犬の認知症の諸症状を改善すると考えられています。
また、同じく「ニセルゴリン」というお薬も脳の循環や神経伝達機能を改善する働きがあるため、イギリスなどでは犬の認知症治療薬として認可されています。
ただ、これら2つのお薬は日本において犬の認知症の治療薬として認可されているわけではないため、取り扱いに関してかかりつけの動物病院に確認する必要があります。
一方、認知症の症状緩和薬としては不安を抑えるための抗不安薬や、旋回行動を抑えたりするためなどの鎮静薬、さらには漢方薬も症例によっては使用することがあります。
まとめ
動物の寿命が延びたことにより、認知症は避けることが難しい病気の1つかもしれません。ただ、見方を変えると認知症になるまで長生きしてくれたと考えることもできます。
また、認知症を完治させる治療法はありせんが予防や進行を遅らせることや症状を緩和することは可能な病気です。
老犬に気になる症状が見られた場合は、すぐにかかりつけの動物病院に相談してくださいね。
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