【獣医師監修】犬の膝蓋骨脱臼とはどんな病気?膝蓋骨脱臼の症状、原因、予防について

2023.06.11

【獣医師監修】犬の膝蓋骨脱臼とはどんな病気?膝蓋骨脱臼の症状、原因、予防について

動物病院で愛犬の膝を触った獣医師から「少し、お皿が外れやすい」や「お膝が弱いです」などといわれたことのる飼い主さんは多いのではないでしょうか?それは、愛犬が「膝蓋骨脱臼(パテラ)」であることを意味している可能性があります。 よって今回は犬の膝蓋骨脱臼の症状、原因、予防について解説していきたいと思います。

犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)とは?

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膝には「膝蓋骨(しつがいこつ)」というお皿のような形をした骨があり、足の付け根から膝までの太ももの骨である「大腿骨(だいたいこつ)」にある「滑車溝(かっしゃこう)」というくぼみにはまっています。

膝蓋骨が滑車溝にきちんとはまっていることで膝関節を滑らかに、まっすぐ曲げ伸ばしさせることができるのですが、この膝蓋骨が滑車溝から外れてしまうことがあり、その状態のことを「膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)」といいます。または解剖用語で膝蓋骨を意味する「パテラ(patella)」を「パテラ=膝蓋骨脱臼」として用いる場合もあります。

◆2つのパターンがある

膝蓋骨脱臼には2つのパターンがあり、膝蓋骨が膝の内側に外れる状態を「内方脱臼」、外側に外れる状態を「外方脱臼」といい、小型犬においては内方脱臼が最も多く見られるといわれています。また、両方向に外れる状態を「両方向性脱臼」といいます。


犬の膝蓋骨脱臼の症状

犬の膝蓋骨脱臼は膝蓋骨の脱臼の程度によって以下の表でまとめたようにグレード1からグレード4まで分類されており、グレードによって症状が異なることが特徴です。

グレード1
膝蓋骨は普段は正常な位置(滑車溝に収まっている)にあります。膝をのばした状態で膝蓋骨を指で押すなどの力を加えると脱臼してしまいますが、力を加えることを止めると自然に元の位置に整復されます。ほとんど症状は認められませんが、膝蓋骨が脱臼したときにキャンと鳴いて後ろ足を挙げる、スキップのような歩き方をするなどの様子が見られることがあります。

グレード2
膝関節の状態は不安定であり、寝起きの時などのように膝関節を曲げることによって膝蓋骨が簡単に脱臼してしまいます。
後ろ足を曲げ伸ばししてあげたり、指で膝蓋骨を押したりすると元の位置に戻すことができます。膝蓋骨が脱臼したときに脱臼した方の足を「跛行(はこう)」という、引きずったり、かばったりするような歩き方が見られます。

グレード3
膝蓋骨は常に脱臼した状態です。
指で押せば一時的に滑車溝に戻すことができますが、すぐにまた脱臼してしまいます。常に跛行が見られたり、後ろ足を曲げ、腰を落とした状態で歩いたりするなどの異常が見られることが多いようです。

グレード4
膝蓋骨は常に脱臼した状態であり、グレード3とは異なって指で押しても元の位置に戻すことができません。うずくまった姿勢で歩いたり、前足に体重をのせることによって膝蓋骨が脱臼している足を浮かせるように歩いたりする様子が認められます。

なお、長期間の膝蓋骨脱臼が後ろ足における骨の配列に異常をきたし、重症例では極端な「O脚」や「X脚」を引き起こすことがあります。

ただ、グレードが上になれば必ず症状が激しく現れるとは限らず、また同じグレードであったとしても個体差などにより症状が犬によって異なることも多いため、あまり「グレード」という言葉にとらわれないようにしましょう。

また、指で戻すことができるグレードであったとしても飼い主さんの独断で膝蓋骨を整復することによって愛犬の状態を悪化させてしまう危険性もあるため、必ず獣医師の指示に従うようにしましょう。


犬の膝蓋骨脱臼の原因

では、犬の膝蓋骨脱臼が起こる原因としてはどのようなものが考えられるでしょうか?基本的には「先天的な理由」と「後天的な理由」の2つが存在するといわれています。

◆先天的な理由

先天的な理由としては遺伝的な要因が関係していると考えられており、生まれつき膝蓋骨がハマる場所である滑車溝が浅いなどの膝蓋骨の周辺にある骨の形成や靱帯、筋肉などに異常があることが関係しているといわれています。

よって先天性の場合は、生後2~3ヶ月齢といったまだ子犬のときにすでに膝蓋骨の状態に異常があることが判明していることも多いようです。

◆後天的な理由

後天性な理由としては高い場所からの落下や交通事故、後ろ足を何かに強くぶつけるなどによって膝に激しい衝撃が加わったり、膝蓋骨を損傷してしまったりするなどの原因が考えられます。

また頻度としては少ないですが、子犬の頃に「総合栄養食」と記載されたフードではなく、おやつばかり与えてしまったり、劣悪な環境下で十分なフードを与えられなかったりすることなどによる栄養障害も後天的な理由となるでしょう。


膝蓋骨脱臼になりやすい犬種

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先天的に膝蓋骨脱臼になりやすい犬種としてはチワワやトイ・プードル、ポメラニアン、マルチーズ、ヨークシャー・テリアなどの超小型犬~小型犬が発症しやすいといわれているため、これらの犬種と暮らしている飼い主さんの場合は特に注意が必要となります。

ただ、中型犬や大型犬でも発症したという報告もあるため気になる症状が見られたら超小型犬~小型犬でなくでも動物病院に相談するようにしましょう。


犬の膝蓋骨脱臼の治療法

犬の膝蓋骨脱臼の治療法としては、悪化していないか経過を確認しつつ様子を見る保存療法と根治を目標とする手術の2種類が存在します。

◆保存療法

保存療法としては主に痛みをとるための鎮痛剤や関節系サプリメントなどの投薬を行う内科治療ならびに膝への負担を減らすために肥満しているならばダイエットなどの対策を行います。

基本的にリハビリテーションは、現時点では膝蓋骨脱臼の保存療法として効果は認められておらず、あくまで手術後がリハビリテーション対象となります。また、膝蓋骨脱臼用のサポーターも販売されていますが、膝蓋骨が脱臼している状態でサポーターを着用させた場合は症状を悪化させる可能性もあるため、必ず獣医師の指示の下、装着させるようにしましょう。

◆手術

手術としてはかなり高度な整形外科手術となるため、可能ならば整形外科に特化した動物病院で行うことをおすすめします。

手術の方法にはいくつか種類があり、グレードなどによってそれらを組み合わせて行うことが主流です。
主として以下の術式が代表的なものとなります。

滑車溝形成術(かっしゃこうけいせいじゅつ)
膝蓋骨が内方脱臼している症例にて行われることが多い手術であり、滑車溝を深くして膝蓋骨が脱臼しにくくなるようにすることを目的としています。

脛骨粗面転位術(けいこつそめんてんいじゅつ)
グレードの高い膝蓋骨内方脱臼では、膝蓋骨を中心とした筋肉や靭帯の位置が異常であるケースがよく認められています。具体的には「太ももの前側にある4つの筋肉の大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」~「膝蓋骨」~「膝蓋骨のすぐ下に続く靱帯である膝蓋靭帯(しつがいじんたい)」の位置が直線上でないため、脱臼を起こしやすくなると考えられており、これらの位置を調整することを目的とした手術です。

筋および支帯の矯正
膝蓋骨が正常な働きを行うためには、大腿四頭筋や膝関節周囲の靭帯なども正常に働くことがとても大切となります。よってバランスが悪い部位を矯正することなどが目的となる手術です。

この他にも様々な術式が存在し、グレードや犬種、年齢、症状などによって手術方法が異なるため、獣医師とよく相談する必要があります。

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犬の膝蓋骨脱臼の予防法

高い場所からの落下や交通事故などの後天的な原因による膝蓋骨脱臼ならば、飼い主さんが注意することで予防することはできますが、遺伝的な要因が関係している先天的な原因による膝蓋骨脱臼の場合、完全に予防することは難しいと考えられます。それでも、グレードを悪化させないように様々な予防をすることはとても大切になってきます。

予防方法としては以下のものを挙げることができます。

太らせないようにする
膝蓋骨脱臼の予防に限ったことではありませんが、膝関節への負担を減らすためには適切な体重を保つことが重要となります。少なくとも月一の頻度で体重を測定することやカロリー計算を行い、フードの量を計測して与えることをおすすめします。

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生活環境を整える
フローリングなどのツルツル滑る場所では膝に負担がかかるため、症状が悪化する可能性があります。よってカーペットやマットなどの滑り止めを敷くようにしましょう。また、爪や肉球の間の毛が伸びていても滑りやすくなるため定期的に足裏カットなどのお手入れも行うことも大切です。

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過度な運動を行わない
運動による過度な膝への負担も悪化の原因となるため、高いところから飛び降りたり、二本足で歩かせたりするような行動は避けるようにしましょう。


まとめ

犬の膝蓋骨脱臼は生まれつきのものによることも多いため、発症を避けることは難しい病気の1つでもあります。少しでも気になる症状が見られたら、愛犬のためにも動物病院に相談しつつ適切な予防を行ってあげてくださいね。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に15医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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