【獣医師監修】犬の皮膚糸状菌症とは?症状や原因、治療法から人にうつるリスクまで

2024.04.14

【獣医師監修】犬の皮膚糸状菌症とは?症状や原因、治療法から人にうつるリスクまで

皮膚糸状菌症は、犬に発生する皮膚病の中でも有名なものの1つです。しかし、皮膚糸状菌という耳慣れない言葉に、どんな皮膚病なのか不安に思う飼い主さんも多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、皮膚糸状菌症になると現れる症状や原因、人にもうつる病気なのかどうか、治療法から予防法までをまとめて解説します。

犬の皮膚糸状菌症の症状

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犬が皮膚糸状菌症にかかると、皮膚や被毛にさまざまな症状が現れます。

代表的なものとしては、

・皮膚の赤み
・ブツブツとした発疹
・フケの増加
・かさぶた
・円形の脱毛

などがあり、中でも皮膚に「リングワーム」と呼ばれる円形の赤みが出るのも特徴的です。

皮膚の表層だけで感染が留まれば自然治癒することもありますが、皮膚の深部まで炎症が広がると酷く化膿したり、肉芽腫と呼ばれるしこりを形成し、治りにくい状態に陥ってしまうこともあります。

こういった皮膚糸状菌症の症状が出やすいのは、犬の頭や顔周り、前足などが中心です。ただし、犬が自分で引っ掻いたり、体を舐めることで病気の原因である皮膚糸状菌をあちこちに広げてしまい、首や背中、お腹や後ろ足などの他の部位に症状が出現することも少なくありません。


犬の皮膚糸状菌症の原因

◆真菌

そもそも、犬の皮膚糸状菌症の原因である「皮膚糸状菌」は、「真菌」と呼ばれるカビの仲間です。顕微鏡では糸のように細長い形状をしているのが見られることから、この名前が付けられました。

本来は犬や人の体、生活環境中などに普通に存在しており、健康な犬であれば悪さをすることは少ないです。

しかし、子犬や老犬、免疫抑制剤などを飲んでいる場合など、免疫機能が弱い、または低下している犬では、皮膚のバリア機能が弱まったタイミングで、皮膚糸状菌が皮膚の角質層や爪、毛に侵入し、感染が成立してしまうことがあります。

◆環境中のほこり

皮膚糸状菌は、犬や飼い主さんが暮らす生活環境中にも存在しています。

中でも室内のほこりや動物の抜け毛などに滞留しやすく、掃除の頻度が足りずに生活環境が汚れていると、皮膚糸状菌症にかかりやすい(再発しやすい)状況を作ってしまいがちです。

また、室内だけでなく土壌にも含まれることがあるため、免疫機能が低下している犬と暮らす時には、どこにでも皮膚糸状菌症の元になるものは存在するのだと理解しておく必要があります。

◆感染動物との接触

犬の皮膚糸状菌症は、感染している動物と濃密に接触することでもかかる可能性があります。

子犬と親犬間や同居動物間、ペットショップや保護施設などで集団生活を送っている犬同士などで直接感染するケースが多いため、感染犬1頭でもいる場合は、周囲に広がるリスクもあることを知っておかなければいけません。

免疫機能が十分に保たれている犬であれば、身近に感染犬がいたとしても皮膚糸状菌症にかからない場合もありますが、注意しておくことは大切です。


犬の皮膚糸状菌症の治療法

◆皮膚・被毛の検査で鑑別診断をする

皮膚糸状菌症の治療を行う時には、まずは他の皮膚病が原因で症状が現れているのではないか、獣医師によって診断してもらう必要があります。

皮膚糸状菌症を疑う場合は、
●抜毛検査
●ウッド灯検査
●真菌培養検査
●皮膚掻爬(そうは)検査

などの検査を中心に行うことが多いでしょう。

抜毛検査は、感染しているであろう部位の毛を少量抜いて、皮膚糸状菌が付着していないかを顕微鏡で見る検査です。

感染している部位に特殊な光を当てると蛍光色に光るウッド灯検査や、培地に少量の毛を乗せて皮膚糸状菌がいるかどうか(増えるかどうか)を見る真菌培養検査は、飼い主さんでも検査結果が目に見えて理解しやすいでしょう。

ただし、皮膚糸状菌症の症状に見えても実際は別の皮膚病の場合もあるため、それらが関連していないかどうかを確認する皮膚掻爬検査など、最初は一般的な皮膚検査が幅広く組み合わされることがほとんどです。

皮膚掻爬検査で皮膚の表面を少し掻き取って顕微鏡で見ると、ニキビダニや疥癬などの皮膚に住む寄生虫が見つかることもあります。
 

◆抗真菌薬を服用する

犬の皮膚トラブルの原因が皮膚糸状菌症だと確定したら、抗真菌薬と呼ばれる内服薬が処方されることが多いでしょう。

感染部位があちこちに散らばっていても、広い範囲に薬の効果を行き渡らせやすいのがメリットです。

皮膚の細菌感染が同時に起こっていたり、かゆみが強い場合は、抗生剤やかゆみ止めも併せて処方されることがあります。

◆外用薬を塗布する

皮膚糸状菌症にかかっている部位にピンポイントで薬の効果を届けたい時には、外用薬(塗り薬)が用いられます。また、感染がごく狭い範囲で、症状が軽度なものであれば、内服薬を使わずに外用薬で対応することもあります。

注意点としては、外用薬を塗布した後に犬が舐めとってしまう可能性があることです。何かを塗られることを気にする犬の場合は、食事の直前に塗布したり、おやつを食べさせて気をそらしている間にさっと済ませるようにしましょう。

◆薬用シャンプーで洗い流す

動物病院で獣医師から処方される薬用シャンプーには、抗真菌剤が含まれているものもあります。

薬浴をすることで、皮膚や被毛に付着した皮膚糸状菌を洗い流すことができ、シャンプー剤に含まれる薬の成分も皮膚から浸透していきます。

薬用シャンプーを使用して洗う時には、
◎感染部位を毛刈りして洗いやすくする
◎泡をしっかり作って優しく洗う
◎5~10分ほどつけ置きして、感染部位に薬の成分を行き渡らせる
◎少し冷たいくらいのぬるま湯を使う
◎すすぎ残し、乾かし残しをしない

といったポイントに注意しながら実施してあげてください。

熱い湯温やドライヤーの温風は、血行を良くしすぎてかゆみを悪化させてしまうことがあるため、ぬるま湯での洗い流しや、タオルドライ・冷風での乾燥を中心に行うことが重要です。


犬の皮膚糸状菌症は人にもうつるの?

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皮膚糸状菌症は、犬だけの病気ではありません。人獣共通感染症(動物由来感染症/ズーノーシス)と呼ばれる人と動物のどちらにも感染することがある病気です。

犬と同じく、子どもやお年寄り、投薬などによって免疫機能が弱くなっている人が感染しやすいため、飼い犬が皮膚糸状菌症と診断されたら、家族間で注意しましょう。

また、自宅での看護で、愛犬に外用薬を塗ったり、薬浴で感染部位に触れる機会が多い飼い主さんも、「自分は元気だから大丈夫」と思わずに、使い捨ての手袋を使用するなどの感染対策をすることをおすすめします。

腕や首元など、犬と接触しやすく、服などで隠れないような部位にリング状の特徴的な赤み(リングワーム)やかゆみなどの症状が見られたら、すぐに人間の病院を受診してください。


犬の皮膚糸状菌症の予防方法

◆定期的なシャンプー

皮膚糸状菌症にかからないようにするには、犬の体の清潔を保つことが最優先です。定期的なシャンプーを行い、皮膚や被毛についた汚れや余分な皮脂を落としましょう。

また、ブラッシングで抜け毛を体に留めない、もつれや毛玉を悪化させないことも大切です。

体の汚れや、抜け毛の残存などによる通気性の悪化は、犬の体の表面で皮膚糸状菌を増殖させやすくなります。

◆生活環境

生活環境中にいる皮膚糸状菌をゼロにすることはできませんが、室内をこまめに掃除することで、環境中のほこりや抜け落ちた毛に存在する皮膚糸状菌を減らすことができます。

不潔な環境は皮膚糸状菌の繁殖場となってしまい、犬の治療をきちんと継続しているはずなのになかなか治らないといった問題も引き起こしかねません。

犬が皮膚糸状菌症に感染している時には、ダメージを受けた皮膚や被毛に皮膚糸状菌が付着したままフケや抜け毛として室内に落下する量も増えるため、毎日しっかりと掃除や換気を行うことをおすすめします。

◆ストレスの少ない生活

通常、健康な犬では皮膚糸状菌を自分の免疫でやっつけることができます。しかし、身体的・精神的にストレスを感じることが多い日々では、感染症への抵抗力が落ちやすく、体調を崩す原因となります。

犬がおいしく食事を食べているかどうか、十分な運動の機会を設けているか、暑さや寒さにさらされずに快適に過ごせているかなど、犬のライフスタイルを定期的に見直してみましょう。

そしてもちろん、大好きな飼い主さんとコミュニケーションをすることが犬にとっては喜びとなるので、話しかけたり、触れ合う時間を毎日確保してあげてください。

◆感染動物からの隔離

もしも皮膚糸状菌症と診断された同居動物がいれば、治療が終わるまでの間は、別室で過ごさせる方が良いでしょう。

気をつけていても、同居している犬同士、犬と猫同士なら、くっついて過ごしたり、お互いに体を舐め合うことも多いはずです。すると、感染が拡大したり、治りかけているのにまたうつし合ってしまうことも考えられます。

感染している動物の一時的な隔離は、予防策としても、犬の皮膚糸状菌症の治療を長引かせないための対策としても、有効なものとなるでしょう。


まとめ

犬の皮膚糸状菌症は、犬同士だけでなく、人や猫などの他の動物にもうつる厄介な感染症です。しかし、早期に発見して適切な治療を行うことができれば、きちんと治すことができます。

そのためには、日頃から愛犬と触れ合って定期的に皮膚や被毛の状態を観察したり、異常を感じた時にはかかりつけの動物病院で早めに検査を行うことが大切です。

皮膚糸状菌症でよく見られる症状や治療法、感染を防ぐ予防策をチェックしておき、いざという時のために備えてあげてくださいね。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に16医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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